さるハゲシンデレラ総評座談会

書類審査を勝ち抜いた24人の候補者が“何をやるかも決まっていない”という異常な状況で果敢に挑戦した“さるハゲシンデレラオーディション”。受ける方も真剣なら選ぶ方も真剣勝負。果たして5人の審査員はいかにして“さるハゲシンデレラ”を選び出したのか? 選考直後の総評対談を採録します。

***某インド料理屋にて***

――今回、初の“さるハゲシンデレラ”として松本華菜実さんが選出されましたが、審査の序盤から5人中3人が推していましたね。

吉田恵輔 なんとなく、これは普通のオーディションではないとは思ったんですよ(笑)。オレは毎年さるフェスに来てたわけではなかったですけど、それでも“さるハゲ”には可能性というかカラーみたいなものがあって、やっぱり「可愛いだけじゃ通じねえぞ!」っていうのはありましたよね。

しりあがり寿 松本華菜実さんのどこに一番魅力を感じました?

吉田恵輔 オレは本来パンツを脱いでる女性っていうか、要するに恥部をさらけ出してくれる人が好きなんです。でも松本さんは質問してもそれをまったく出さない人で、オレにしてみたら唾をペッと吐き出したいタイプのはずなんです。それなのに「なんか好きかも」って思ってしまった。こんなこと初めてですよ!

天野天街 ある意味では吉田監督の童貞を奪った女ですね。

吉田恵輔 そうなんです。やっぱり“初めての人”って大切にしたいですよね(笑)。

会田誠 僕は実は、フェスの中でシンデレラ劇をやるっていうことが全然頭にないまま選んだんです。松本さんは総合的に将来性がありそうというか、舞台に立つだけじゃなく、クリエイターとしても可能性がある気がしたことが一番でした。これからいろいろな方向に広がっていく人なんじゃないかな。

鈴木砂羽 “さるハゲシンデレラ”は普通のオーディションじゃないので、私も最初からそっちの基準で見てたんですけど、ちゃんと“普通じゃない方”がたくさんいらっしゃいましたよね(笑)。その中で松本さんを推した一番の理由は、彼女の明るさなんです。もちろん暗くてネガティブな資質が魅力的な人たちもいたんですけど、さるフェスのシンデレラというアイコンとしても成立しないといけないというせめぎ合いの中で、松本さんにはオーラがあった。オーラとか言うと気持ち悪いんですけど(笑)、あの明るさには頼っていいというか、彼女の周りには人が群がりそうな感じがするんですよ。

吉田恵輔 彼女が一芸をやった後の拍手の大きさって、今回で一番大きかった気がしましたね。

鈴木砂羽 あの時、会場が本当にホワっとしたんですよ。今回の審査員のキャラクター的には認めにくいと思いますけど(笑)、実は松本さんは可愛いんです。天使性がある。

しりあがり寿 おお、天使性っていい言葉だね。

鈴木砂羽 実は一番大事なのはそこなんじゃないかなって気がしていて。映画のオーディションだったら役に合わせて求めるものが特定できますけど、こっちはもっと広い意味でのシンデレラで、やっぱり愛される魅力があった方がいい。個性や芸で忘れられない方はたくさんいらしゃったんですけど、松本さんは天使という点で抜きん出てたと思うんですよね。

天野天街 僕は最初は松本さんに票を入れなかったんだけど、みんなの話を聞いていたら、ホントにそんな気がしてくるんだよね。

鈴木砂羽 それって私たちのパフォーマンスのせいじゃないですか?

天野天街 いや、別に同調圧力に負けたんじゃないよ(笑)。松本さんには本当にそういう要素があるから。あと僕の中で一番大きかったのは、松本さんの顔がしりあがりさんと似てることで。

一同 (爆笑)

天野天街 例えば松本さんにしりあがりさんみたいなつけ鼻をしてもらったとして、つけ鼻を取ってもやっぱりしりあがりさんに似てるのがいいよね。

しりあがり寿 それが基準だったら、次にオーディションやる時には僕に似た人ばっかり集まって困りますよ!

天野天街 あと松本さんは今回の候補者全員の中でもなにか質感が違ったよね。その引っかかる“なにか”があるってやはり面白いと思うんです。

しりあがり寿 松本さんって去年のさるフェスでボランティアスタッフをやってくれていたんだよね。だから僕は会ったことがあった。

吉田恵輔 候補者が初見じゃないとなると、印象が僕らとは違ってきますよね。

しりあがり そうそう。でも考えてみればこれこそシンデレラストーリーだよね。スタッフから主役だもんね! あと彼女が持っている健康的な明るさの“強度”を試してみたい気はする。あのリアリティのなさって「今の時代にどうよ?」って言われそうじゃない? そこで病んでるものを提示するんじゃなくて、「さるフェスはあえて天使でいきます!」っていうことだよね。

鈴木砂羽 打たれ強かったですよね。吉田監督が「ホントはドロドロしたものあんじゃね?」って言っても「いや、ないですね!」って(笑)。確かに「それはどれほどのもんじゃい?」って試してみたい気持ちは私にもあります。楽しみだなあ。

しりあがり寿 彼女にとっては選ばれて幸せだったかわかんないね(笑)。でも例えば谷川俊太郎さんって天使な感じするじゃない? 松本さんにはそういう感じと共通する気がするんだよね。

――ではほかの候補者の方々のこともお聞きしていいですか?

吉田恵輔 こんなこと言っちゃ申し訳ないですけど、最初は正直「ホントに集まるの?」って思ってました。このオーディションに「ちゃんと応募者来てくれるのかな?」って。

しりあがり寿 本当に審査員のみなさんのおかげですよ(笑)。

吉田恵輔 でもシンデレラや準シンデレラの人たちはもちろんだけど、みんなすごくキャラが立っていたし、まだ見たい、もっと見たいっていうのはものすごく感じた。オレ、オーディションなんて腐るほどやってきましたけど、普通のオーディションでは絶対に見られない人たちが集まりましたよね。しかも天野さんからムチャな要求をされてもちゃんとトライしてくれたことも含めて、すごく質がいいオーディションだと思いました。もしこれが美人コンテストなら、おそらく質は悪いんだけど(笑)。

会田誠 準シンデレラは結果的に場数を踏んでる方が多くなってしまって、素人的な、美大生みたいな人とかはあんまり選ばれなかったのはちょっと残念でしたね。でも素人のみなさんのアベレージもすごく高かった。天野さんのいじわるなムチャぶりなんて、僕だったらテンパって泣きそうになってたと思う(笑)。

天野天街 試してみたら、みんながやってくれるからつい面白くなっちゃって(笑)。

会田誠 だから、落選といってもちょっと力及ばずという感じで、みんな本当に惜しかったと思いますよ。

吉田 オレ、もっと勘違いしてる人がいっぱいかと思ってた。ごく普通の、有名になりたいとか、私かわいいでしょっていうだけで来てる候補者は叩く気満々でいたんだけど。

鈴木砂羽 それ、私も思った。「さるハゲシンデレラ」っていうコンセプトをわかって来てくださってる感じがすごくしましたね。

しりあがり寿 あと芸能事務所に所属している人たちも、想像してしまいがちな薄っぺらな感じじゃ全然なかったよね。就職試験で決まり文句だけ答えるみたいな人はいなくて、それぞれがちゃんと面白かった。失礼な話だけど感心しちゃったなー。

会田誠 あれはやっぱり「さるハゲシンデレラ」っていうんで、事務所から選り抜きの個性派が送り込まれたんですかね?

吉田恵輔 きっとそうですよ。そもそも「さるハゲシンデレラ」なんて何がなんだかわかんないんだもの!

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